Dance Fanfare Kyoto

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川那辺香乃 「Listen, and…」所信表明 (Dance Fanfare Kyoto vol.03)

Dance Fanfare Kyoto 03からはや1年。 その間、ありがたいことに「Listen, and...」は1人歩きを始めた。 スタッフのみんなや参加してくれた方々が、この企画に共感して、いくつかの公演に呼んでくださったからだ。 私がふとした疑問を持って社会に提案した1つの手法が、こうしてほかの企画に呼ばれるようになった。自分の手を離れていろんなところへ浮遊していく、その感覚はとても不思議だけれど、世界が循環していくような面白い体験だ。 そして、ブログをつい最近、やっと立ち上げた。 http://listen-and.tumblr.com/ そこに書いた所信表明的な文章でもって、Dance Fanfare Kyoto 03のレポートにかえさせてもらえればと思う。 「Listen, and...」はグループ名ではなく、あくまでプロジェクト名だ。 きっと今、さまざまな地域で、「Listen, and...」と同じような試みをしている人たちがいる。私はそんな人たちとも、今後繋がってみたいと思っている。

「Listen, and…」は2015年5月に開催された、「Dance Fanfare Kyoto 03」のプログラムの1つとしてはじまりました。 そのときは「対話」をテーマに、「火を囲み、はなす」、「作品をみながら、はなす」「まちあるきで、はなす」という3つのイベントを行いました。 なかでも、「作品をみながら、はなす」が舞台関係者の方々から好評をいただき、いくつかの公演で「作品をみながら、はなす」を名前を変えながら実施させていただいています。

当初、私が問題として感じていたのは、いまを生きる私たちはあまりにも自分の居心地のいいことに固執してしまい、逆に孤立して生きづらくなっている人が大勢いるのではないか、ということでした。
そのため、たとえば「ダンス」でも、ただ「ダンス」だけをやるのではなく、その他のコミュニティやジャンル(「町内会」でも「福祉」でも「教育」でもなんでもいいのですが)を横断していき、そうしたことを経験しながら創作活動を行ったほうが、観客を惹きつける作品ができるのではないだろうかという発想のもと「Listen, and…」を始めました。

私は主に舞台芸術の分野にこれまで携わってきて、いまは「子どもとアート」や「地域とアート」というような、コミュニティやジャンルを横断していくことを実践しています。そのことによってさまざまな人たちとの関わりが増え、私自身がハブとなることで小さなネットワークができつつあり、その状況を面白く感じています。
一方で、横断するのはそれなりに覚悟が必要だし、悩みも増えるということもわかってきました。
それぞれのコミュニティやジャンルには、小さなことから大きなものまで、いくつも課題を発見します。そして、その場に深く関われば関わるほど、それをどう解決したらいいのかと思い巡らせることが増えていきます。
なにより、自分自身の価値観や考え方が目まぐるしく変わっていくのです。自分がどの立場から物事を見ているのか混乱してきて、最近では、私が1番大切にしていた「舞台芸術」にさえも疑いを持ち始めるようになり、自分が一体「なんの人」なのか、だんだんとわからなくなってきています。(制作者?コーディネーター?どれもしっくりきていません。)

では、私の奥深くに眠る、私に横断をさせていた/させている「私」は、なにを夢見ているのか、ということに迫っていくと、それはただただ、だれもが孤立せず、かといって人間関係でがんじがらめになることのない、ゆるやかで平和な社会をつくりたいという「夢」でした。
これは、一見するととても「世のため人のため」のように聞こえますが、結局は「私」が日々を幸せにすごすための欲求にすぎません。

ただ、なんと困ったことに、その社会をつくりだすためには、私はだれかになにかを強制することも、教えることも、伝えるということですら、いまは煩わしいと感じています。
では、どのように私は「私」の欲求を満たせばいいのか・・・・・。

「Listen, and…」のルールは、「耳をすますこと」です。
人は、なにか言いたいことがあっても話していれば、改まって言わなくてもわかる時があります。それは人が持つすごい能力だと思います。共感する力がもともと備わっている。
そこで、私はその1点を、信じることにしました。

私は、相棒の岡崎さん、そしてもしかしたらこれから関わってくださる方々とともに、だれがなにを言っても否定はせず、互いに向きあい、許しあえる「場」を作り出すことに専念したいと思います。
その「場」では、相手の声に耳をすますことで、さまざまな考え・価値観・視点が変化していくことを楽しんでください。もちろん私たちも楽しみながらやる、ということを前提に行います。

「Listen, and…」は私が目指す社会をゆるやかに構築するための練習の場であり、方法の1つだと考えています。

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AUTHOR

川那辺香乃かわなべかの

滋賀県出身・京都在住。様々な地域での公演やアートプロジェクトに参加し、2012年頃より、京丹波町にある旧質美小学校で「423アートプロジェクト」を続けている。また、滋賀県で障害者の文化芸術活動の企画・運営にも携わっている。同志社大学大学院総合政策科学研究科SIコース修士課程(前期)在学中