川那辺香乃→西岡樹里 インタビュー (2回目) 6月10日(月)京都 四条烏丸周辺
川那辺さんが稽古に立ち会ってからのインタビュー。初顔合わせのダンサーと、まずは西岡さんがとらえている"ダンス"というものを共有する作業が、稽古場では行われていたようです。言葉ひとつひとつのかたちを確かめるように、慎重に対話が紡がれていきました。
- 川那辺:
- 稽古6日目ということですが、メンバーの様子など、いかがですか?
- 西 岡:
- この機会に二人(辻本、長洲)に出会えてよかったと思っています。私がやろうとしていることを理解しようとすること、身体を使って答えることを惜しまない方たちなので、一緒にやっていて非常に充実しています。
- 川那辺:
- 今日は稽古場にお邪魔して、少し見させてもらいました。稽古の中では、いろいろなことを試す時間をいつも設けていますか?
- 西 岡:
- はい。私があらかじめ形を作って動いてもらうっていうことにはあまり興味がありません。動きが生まれてくる状況をどうやって作るかっていうことに興味があるので、その作った状況の中で彼らがどうやって動きを生んでいくかを試しながらやっています。私が話した言葉がどういう風に二人に伝わっているか、稽古時間の内のおよそ半分はほぼディスカッション、残りの半分は身体を動かしてやっています。今までの作品以上に、かなり言葉を使っているような気がします。
- 川那辺:
- いつもの作品作りに比べると、言葉を使っている比重が大きいということですか?
- 西 岡:
- 話している時間自体はあまり変わらないんですが、言葉を探す、ということが大きくなりました。二人とも、私が伝えたことを、できるだけ自分自身にとってクリアな言葉で受け取ろうとしてくれるので、お互いの理解や共有の度合いを測りながら、話をしています。なので、今まで使っていた言葉を割ってその中を見ているような、いつもとは違う時間があるような気がします。
- 川那辺:
- 今日の稽古では、仮のものもありましたが、物を使って稽古をしていましたね。作品に使う物を選ぶ時どのように考え、決めていますか?
- 西 岡:
- できるだけたくさんの見え方がするものを選んでいます。あと、作品の中で光を大切にしようと思っているので、光との相性がよいものを選んでいます。
- 川那辺:
- ものを使いながら、二人のダンサーがもっともっと動きを試そうとしている感じが面白かったです。
- 西 岡:
- そうですね。状況を提案する時は、こうすれば正解、こうすればゴールっていうような方法ではないものを二人に渡したいと思っています。できるだけ、彼らがたくさんの答えを出してくれるような方法や言葉を使いたいなあと。
- 川那辺:
- 今回の作品で、振付家として試そうと思っていることはありますか。
- 西 岡:
- 今回は、作品の終着地点を決めないようにしたいと思っています。
また、物に影響を受けて動きや身体が変わる、ということを中心に考えています。たとえば、自分でコントロールできると思っているものに動きが歪めさせられるとか、日常的に目にはしているけど直接手で扱うことが少ない物と、新しく出会い直すような。
ただ、こういったことを伝えようとしても、ダンサーから手厳しく問い返されることが多々あります。言葉で伝えることの難しさを感じていて、でもその伝わらなさをクリアするためにたくさん言葉を使っていると、実は自分がこんなに単純なことを考えていたっていうことに辿りつく場合もあれば、自分が曖昧なイメージでしか話せていなかったことに気づいたりなど、さまざまな発見があります。
- 川那辺:
- なにかのメソッドのように、稽古の中で継続的に行っている取り組みはありますか?
- 西 岡:
- 「"歩く"ってことをどれぐらい日常からずらせるか」ということを、今回はひとつこだわってやりたいと思って、最初の日から続けて取り組んでいます。
- 川那辺:
- 日常からずらすっていうのは、普通の歩き方と違う試みをするということですよね。
- 西 岡:
- 普段はどこかに行こうという目的があって歩きますが、今やっているのは、歩く時にその身体にかかってくるタスクを増やして意識的な動きを生もうとしている、というようなことです。
- 川那辺:
- 普通は目的があって歩くから、歩く時は別のことを考えながら歩いていますよね。そうではなく、歩いている行為そのものを意識するということでしょうか?
- 西 岡:
- そのようなことです。歩く、進む、というのは全身を使う動きの中で最もシンプルなものの一つと思っています。そのシンプルな動きを使って、空気を認識するってことを試したい、と、思っていたんです。それがクリエイションの中でどうやって使えるのかなあと考えていて。
- 川那辺:
- 空気を認識するというのは、どういうことでしょうか? 見えないものを感じ取るということでしょうか。
- 西 岡:
- でも、空気は物理的にはありますよね、ここに。真空を体験したことがないので、あるかないかという差はわかりにくいですけど、小さな動きや温度の差で、この空間になにかがあるということは認識できる。そのように、空気がここにあると認識しようとする注意力とか集中力みたいなものを、動きに使ってもらっています。
- 川那辺:
- 空気を意識することで踊りが変わると考えているということですよね。その変化は、どのようにしたらあらわれると思いますか?
- 西 岡:
- それはまだわかりません。ただ、ダンサーをはじめ身体を使ってなにかをしようとする人は、身体の感覚が、他の人よりも特化していると思うんです。たとえば舞台で照明を浴びている時も、身体の感覚がすごく働いています。その中でも触感は大事な事の一つだと思っていて、お客さんにもその触感が意識されるぐらいの繊細な身体を持つことがダンサーには必要なのではと考えています。それは、空気を認識するというところまで身体を注意深く使うということでもあり、またその集中した意識をもった身体を見てみたいということでもあります。
- 川那辺:
- 西岡さんにとって、触感という言葉は、空気という言葉と二アイコールですか? 触感を意識するということと、空気を意識するということは、似ていることですか?
- 西 岡:
- 少し違います。空気を意識するっていうことは、ここも、ここも、ここも(身体から少し離れたところを示す)、自分が触れていないところも含めています。触感っていうのは自分の身体に一番近いところのことを示します。
- 川那辺:
- そういった考え方の中で、「空気を認識する」という言葉に導かれていったんでしょうか。
- 西 岡:
- はい。でも、そのことについてはダンサーとかなり話をしました。最初に触感っていう言葉ではわからないとなり、意識する、感覚するなどいろいろな言葉を試していった中で、二人にとっては認識するって言葉がぴったりきたようです。
- 川那辺:
- 現在の課題を教えてください。
- 西 岡:
- 課題はたくさんありますが、ひとつには、二人の身体をどういう風に扱っていけるのかということがあります。二人のバランスがすごく面白くて、お互いがお互いの持っていないものを持ち合っているように見えることがあります。たとえば、長洲さんだけで繊細な部分を1時間ぐらい作っていたところに辻本さんが入ってくると、部屋の色がガラッと変わったみたいに、さっきまでと同じようにはできないというか、違うエネルギーを持っている感じがあります。一方で、辻本さんと問答をしている時に長洲さんが入ってくると、緊張していたものが緩んだり。その二人の身体の色の違いをどう見せていけるか、考えています。
- 川那辺:
- これからどのような作業をしていきますか?
- 西 岡:
- まだ稽古も6日目だし、いろいろな案を出して、私たちにできることは何かを探っていくことが中心だと思います。動きがものの影響を受けて変化していくっていうこと、そこだけで終わらせないように、それをどうやって越えていけるのか考えていければと思っています。先ほど終着地点を決めないと言ったように、まだ最終的に決定している形はありません。
-
- - インタビューを終えて -
- 西 岡:
- 今回は第三者(インタビュアー)に、リハーサルを見てもらい、そこで感じた疑問などもインタビュー中に投げかけてもらう事がありました。そうする事で、作品の中にいる出演者とはたどらない道筋を通って作品を考えるという時間をもらう事が出来ました。これはもう一つのクリエーションなんだろうとも思います。
そして、2回目のインタビューがこうしてWEBにあがることになり、私が作品について考えている事や出演者との試行錯誤など、クリエーションの経過が公になっていきます。このWEB上という不特定多数の人と関わる環境に言葉が置かれると、自分の話した事から少し距離を持って、それをもう一度見直すことが出来るように思います。それは、取り返しの効かない状況で、自分を見るという感じで、伝える責任を改めて考えさせられました。これを読まれる方が作品を見に来てくださるとしたら、どんな目線で作品をみるのだろうと興味を持っています。
- 川那辺:
- この企画を通して、言葉を使う・選ぶという行為の難しさや、私と他者では同じ言葉を使っていても、意味が異なる場合がある、ということに今更ながら気づかされる。
また、今回も西岡さんの外側の世界とのつながり方に心奪われた。たとえば、「歩く」ことについて、彼女が言っていることは、日常でも意識することでいつも見ている世界が変わりそうな予感がする。
こうしたことを言葉に変えていく試みはどんどんやっていきたい。でも、やはり実際やってみて、体でわかることも必要なんじゃないかな。
PROGRAM4 ねほりはほり
7月6日(土) 15:00開演 (高木作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 17:15開演 (西岡作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 19:45開演 (増田作品のみ上演+トーク)
上演時間 各回60分 (作品上演 約30分+トーク 30分) | 上演場所 音楽室
定員 各回60名 | 料金 各回500円 (当日+300円)
7月7日(日) 15:00開演 (ねほりはほり3本立て) ※トークなし
上演時間 約90分 | 上演場所 音楽室 |
定員 60名 | 料金 1,500円 (当日+300円)
webサイト予約フォーム || シバイエンジン
タイトル ||「名前のないところから」
振付 || 西岡樹里 出演 || 辻本佳 | 長洲仁美
インタビュアー || 川那辺香乃 (BRDG)
いわゆる「振り付け」作業では、踊り手のからだに動き出すきっかけを与えて、それを続ける動機を渡していくことをやったりする。それに踊り手がからだを動かされていくのだとすると、そういった変化を生む可能性は人以外のモノにも同じようにあると思う。きっかけや動機は人の手の中だけに納められるものじゃない。この世界にはあらゆるモノが存在している。空気さえもその一つ。その関係と、からだの存在を浮き上がらせてみる。