interview 増田美佳作品 ねほりはほり 《つくっている最中・2》 | PROGRAM |DANCE FANFARE KYOTO

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三田村啓示→増田美佳 インタビュー (3回目) 6月17日(月)京都 出町柳周辺
インタビューも回を重ね、振付家とインタビュアーの間で交わされる言葉がより深いところを探るようになってきました。増田さんが稽古で用いる特有の言葉なども話題にのぼり、即興で踊るということの実際について、共同作業のように二人の言葉が重ねられていきます。

 
- 自分を見ているもう一人の自分 -
三田村:
今日の稽古は富松悠さんがお休みでしたが、見ていて非常に楽しかったです。20分間の即興セッションが特に。じっと見ていても全然飽きませんでした。現在、進度はいかがですか?
増 田:
ラストは少し迷っているところもありますが、最初から最後までの流れはできていて、繰り返し稽古をしています。今日見てもらった即興の部分は、どういう風に意識をもてばうまくいくのか、やりながら検証しています。
三田村:
あのシーンは、完全に即興なんですか?
増 田:
時間は20分って決まっていて、最初の10分は、最初に決めた立ち位置から動かないように指示を出しています。10分経ってから空間移動を始める。決まっているのはそのふたつで、あとは即興で動いています。
三田村:
稽古場にあったホワイトボードに、「人体にできること」と書かれてあり、いろんな単語が羅列してありました。伸びる、まわる、曲がる…。あれはどういった理由で書かれていたんですか?
増 田:
今までも20分の即興セッションは何度かやっているのですが、どういう風に動いてほしいか、細かくは言っていませんでした。以前のインタビューでも話したように、自己表現としてダンスをするのではなく、できるだけ体をひとつのモノとして外側から動かしていくような意識でやってほしい、ということをベースに、その瞬間に自分が必要だと思う最低限の動きをしてほしい、それ以外の余計なことというか装飾的なことは一切省いてほしいとは伝えていました。ただ、それは観念的な言葉でもあって、実際ダンサーの動きはそれぞれが今までやってきたダンスのバックボーンから導きだされていきます。それを分断したいと思った時に、踊る以前に、人間の体にどういうことができるかを素朴に考てみよう、となりました。まずは縮むことと伸びること、筋肉の収縮で動いているということ、そういった原点から。
三田村:
増田さんがやろうとしていることは、自分の中から出てくる衝動に従って体を動かすのではなく、自分の外にもう一人の自分をたてて、そのもう一人の自分が自分の体を客体としてどのように動かしていけるかという実験、ということでしょうか。
増 田:
そうですね。
 
- カードを切る -
三田村:
ダンサーとの話の中で、ひとつひとつの動きを選んでいる状態を保ち続ける、という言葉が出ていました。
増 田:
そうですね。流れにしない、ということです。 あと、ダンサーにお願いしているのは、自分も踊っているその場にいながら、その場が今どうなっているのかを引いて見るような姿勢を、セッションの中に入れてほしいと言っています。3人が3人とも動いているのではなく、誰かが引いた目でその場を見ている。自分だけではなくダンサー3人で作らなければならない時間のために、体でカードを切っていくっていう感じです。
三田村:
カードを切っていくとは、どういう感じですか?
増 田:
今、場に必要なのはこれ、これ、次はこれっていうように、一枚一枚提示していくような体感があります。
三田村:
それぞれが場を客観的に見る視点を持って、場に奉仕するための動きを選んで出していくということが、カードを切るということでしょうか。自分が踊りつつも、客観的に見る自分をも同時に維持するというのは、非常に大変な作業だと思います。
増 田:
そうですね。客観的に見るということが、得意な人と不得意な人がいます。自分がのってくると、自分が動いていくことに集中していってしまうタイプの人もいれば、あるいはそういった相手を感じて自分の動きを控えて引いている時間が長くなってしまう人もいます。
三田村:
ダンサーが客観的になれているか否かを、振付家として判断する基準は明確にありますか?
増 田:
見ていると、良い、もしくは良くないということははっきりあるんですが、言葉にするのは難しいですね。
三田村:
ひとつひとつのダンサーの動きには細かい指定がないとのことですが、たとえば「人体にできること」のような示し方は、いつもやるんでしょうか?
増 田:
いえ、今日が初めてでした。今までは、体をモノとして扱うには体をバラバラに動かす必要がある、というように、ざっくりしたことしか伝えていませんでした。それでどこまでダンサーの自我のようなものが抑えられるだろうかと思っていたのですが、もう少しはっきりと動きの質感のようなものを渡す必要を感じ始めました。
三田村:
ダンサーの自我がない状態に見えることが理想ですか?
増 田:
言葉で説明しにくいのですが、「私」ってことが前面に出てくるような動きあるいは踊り方がある気がしていて、それを避けようとしています。ダンスが難しいのは、扱おうとする体が自分自身というところですが、そのことを意識せずに踊ってしまうと、自我が出てくるように見えるのでしょうか。踊っている自分を疑えということかもしれません。
 
- よいリズムを生むために -
三田村:
今日見た即興の20分間は、ダンサー2人が、体がまったく別の方向を向いていても、相手の出方を読もうとして無言のコミュニケーションを取っているように見えて、その緊張感が非常に面白く感じられました。
増 田:
そうですね、私もあの時間を見ているのが好きです。ただ、その緊張感は、ただ立っているままだと徐々に緩んでいきます。緩んできた時にもう一度場を引き締めるような感じで、ひとつ動きを入れる。その動きのあとの余韻が終わるまで待って、余韻がなくなったら次の動きをしてほしいと言っています。
三田村:
それが、カードを切るということですね。
増 田:
そうですね。
三田村:
確かに、そのカードを集中して選びながら、時におそるおそる、時に大胆に切っているような感じがありました。
増 田:
将棋にも似ているかもしれません。
三田村:
でも、ダンサーが3人になったら更に大変でしょうね。
増 田:
そうですね。今日はたまたま一人休みでしたが、いつもは三人でやっています。でも簡単にはうまくいかないですね。
三田村:
うまくいったかいかなかったかというのは、ダンサーにも自覚があるんでしょうか?
増 田:
どうやらあるようです。自分が踊っている時もそういう感覚はあって、うまくいっていない時は、気持ちいいリズムができてこない感じがします。
三田村:
気持ちいいリズムというのを、もう少し具体的に説明していただけますか。
増 田:
動き自体が何を示しているかはわからないけれど説得力があるように見える瞬間を、三人が的確に選ぶことができて、かつそれが繋がっていくような状態の時にいいリズムが生まれるように思います。ただ、そこになにか曖昧なこと、余計なことが入ってきた時に、全体の歯切れが悪くなってしまう。
三田村:
三人が三人とも、リズムが悪くなってしまうと。曖昧だったり余計なものが入ってくる原因は、たとえば場を客観的に見れていないということなのでしょうか。
増 田:
そうですね。引けなくなってくる時と、何かやらなきゃいけないと思って焦って動いてしまう時です。
三田村:
これからの課題を教えてください。
増 田:
ダンサー3人のよき共犯関係を築くにはどうすればいいか、考えるというか、やっていくことですね。
 
- インタビューを終えて -
増 田:
このインタビューのときから数日経ち、今は本番1週間前に差し掛かろうとしています。 読みながら自分でも引っかかりを感じるところがあり、例えば、「動き自体が何を示しているかはわからないけれど説得力があるように見える瞬間を、三人が的確に選ぶことができて…」 と言っているところがあるけれど、それを渦中の3人が一体何を基準にして選ぶのか。 説得力というのは、踊る、つまり見ながら作る3人の為すことが、その場に立ち会う観客にとっても、その瞬間その行為の必要が説明でなく感じられるということです。 困難な要求をしていると思います。でも人にはそれができると私は考えています。作るものは作られるものために作る、ということを思いながら日々過ごしています。
三田村:
事前に見せていただいた稽古(セッション)が非常に面白く、作品全体の構成も固まってきていたようなので、前回に比べて踏み込めた内容のインタビューになったと思います(ただ致し方の無いことですが、ネタバレの懸念があるやりとりについてはカットになっているのが残念ではあります)。 次回は本番直前、この作品が一体どのようなかたちに変化しているのか楽しみです。

PROGRAM4 ねほりはほり
7月6日(土) 15:00開演 (高木作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 17:15開演 (西岡作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 19:45開演 (増田作品のみ上演+トーク)
上演時間 各回60分 (作品上演 約30分+トーク 30分) | 上演場所 音楽室
定員
各回60名 | 料金 各回500円 (当日+300円)

7月7日(日) 15:00開演 (ねほりはほり3本立て) ※トークなし
上演時間 約90分 | 上演場所 音楽室 | 定員 60名 | 料金 1,500円 (当日+300円)
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タイトル ||
「式日」

振付 || 増田美佳  出演 || 石川喜一 | 富松悠 | 山崎恭子
インタビュアー || 三田村啓示 (空の驛舎・C.T.T.大阪事務局、舞台芸術雑誌「ニューとまる。」編集部)

上演時間。日常とは異なる場をしつらえ、人々の立ち会いのもと人が何かする。それは一体何か。今のための儀式 という言葉がうかんだ。即興であることにずっとこだわりがある。それはこの今への欲望があるからだ。今 と打ったこのときの今は、打ったそばからすり抜けて文字のかたちだけ残る。常に接していて流れていて実感がない。流れを塞き止めることはできないが、せめて起こっていることの只中に、今に触れる時間のために。