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岡崎大輔→佐藤健大郎 インタビュー (1回目) 4月7日(月)京都 東大路丸太町周辺
岡崎さんと佐藤さんの初顔合わせ。佐藤さんの稽古初期の取り組みと、その背後にある意図を、岡崎さんの言葉が丁寧に少しずつほどいていくような対話になりました。ダンス作品づくりの内側に初めて触れる岡崎さんには、新鮮な驚きも。

 
見たことのないものを期待してつくる
佐 藤:
ダンスの作り方はいろいろあって、たとえば自分がずっとやってきたダンスのメソッド――たとえばバレエなど――をベースに組み立てることもあれば、イメージや記憶や言葉などから生まれた動きを繋げていくこともあると思いますが、特に自分が活動しているダンスの分野では、まずはアイデア、コンセプトから作り始めることが多い。ただ、そういった作り方のダンスを観ていると、個的だな、と思うことが多くて。
岡 崎:
個的、というのは?
佐 藤:
個人的、その人しかわからない、ということですね。動きを作る時にどこから発想を得たかとか、なにをイメージして踊っているかということが、観ているだけでは分からなくて、会話をしてようやく分かることが多いです。ダンスなのだけれど、身体の動きだけがあるのではなく、ずっと言葉が付きまとっていて、クリエイションもほとんどその言葉のことに時間を割いてしまうんです。そういったことが気にはなっていて。 今回は、自分が新しい動きを出すっていうことはどういうことなんだろう、ということに関心があります。ぼく自身が今までやってきた経験というものを見つめたいという時期でもあって。自分の癖や思考回路、ボキャブラリーを、とにかく隠さず全部出して、それを整理したい。それはダンサーに対してもそうで、今はダンサーそれぞれの過去のダンスの記憶を手掛かりに稽古をしています。
岡 崎:
稽古は今、3回目とうかがいました。
佐 藤:
はい。初回は、僕がやってきたことを話したり、大事にしているトレーニングを覚えてもらったりしました。2回目、3回目はさきほど言ったことを試しています。行き先がどこになるのか、まだわからないんですが。
岡 崎:
ご自身でやってきたことを整理する機会として、今回の作品づくりに取り組んでいるのでしょうか。
佐 藤:
そうですね。今までは、自分が培ってきたテクニックを人にやってくれと言ったことがあまりなかったんです。そのダンサー自身に発想してもらったことをピックアップして組み立てていくことが多かったんですが、それってある意味妥協なんです。つまり、自分が時間をかけてやってきたことをそのままやってもらうのは無理だろうっていうこと。それと同時に、自分と同じ様な動きをする人を増やしたいとは思っていないんですね。でも、今回揃った3人のダンサーが、それぞれキャリアもあり、身体もきくので、今回はそこまで踏み込んでみようと思っています。自分の中にある感覚を相手にきちんと伝える。そういう時の言語ってとても曖昧でもあるのですが、身体を使いながら丁寧にやっています。自分のバックボーンを伝えて、かつダンサー自身のバックボーンも引き出せるようなことができればと。
岡 崎:
僕のようなダンスのことをほとんど知らない人間からの勝手な印象では、作品づくりって、作り手がイメージを投げて、こんなふうにやってくれって出演者にリクエストするものだと思っていたので、出演者から出てきたものを編集していくやり方というのは想像していませんでした。意外ですね。
佐 藤:
他の人がどんな風にやっているかはわからないですが、僕はそんな感じですね。たとえば僕が見本を示してしまうと、それを追おうとしてしまう。自分と同じことをやろうとしているのを見るって、気持ち悪くて。でもそこを一回切り替えてみよう、というのが今回のクリエイションですね。
岡 崎:
なるほど、おもしろいですね。確かに、こういう風に動きたい、というイメージがあれば、わざわざ人にやってもらわなくても自分でやる方が早いですよね。むしろ、人にやってもらうっていうことは、自分ではできない何かがそこで発生してくるっていうことがあるかもしれません。
佐 藤:
そこに期待があるんだと思います。ぼくが見たことのないものを見せてくれるんじゃないかっていう。
 
まず、手札を全部出してみるところから
佐 藤:
岡崎さんは、ダンスを観られたことありますか?
岡 崎:
あります。以前は、ダンスを観ていても自分の中に何も起って来なくて、どうなんだろう…と思っていた時期もあったんですが、ある日ダンス公演を観ていたら、あ、これって木が生えているみたいに見える、って思ったことがあったんです。それをダンサーに直接伝えたら、「あ、それもあり」って言われて。それもありってどういうことですかって聞いたら、「別に意図しているものはないから、見てもらった人に感想を聞かせてもらったら参考になる」と。あ、そういう感じで見ていいのかって思ってからは、普段全然使ってない頭の部分が開く感じがして、それからよく観るようになりました。これはいったい何だろうって、頭痛くなるぐらいまでじっと観るのが好きですね。
佐 藤:
そういう風に観てくださると嬉しいですね。ダンスを見ながら、違うことを想像したり、観ている人自身のいろんな時間にワープしていくような感覚が、ダンスの面白さかもしれません。でも、よく「分からない」っていう感想を聞くことがあって。もちろんそれも素直な意見だとは思うんですが、やっぱりショックですね。分かるか分からないかで観る人には向かない芸術なんじゃないか、岡崎さんみたいに、これはなんだろうっていう視線があってこそかな、とも思います。
岡 崎:
少し話題が戻りますが、ご自身のやってきたことを整理しようとされていることについて、そもそもどうしてそこにチャレンジしようと思ったんでしょうか。きっかけはありますか?
佐 藤:
どこかでダンスって、あるひとつの動きを、発想によって変容させたり、発展させていって、自分から離れていくことがよしとされているような感覚があって。でも、その動きの発展に興味がなくなってきたんです。つまり、どんどん発展していこうとしても、その人自身の質は変わらないというか、本人は新しいことをしているつもりでも、あなたはあなたでしょ、っていう。もちろんそれを解き放ちたいと思ってみんなやっているんだろうけど、むしろ今の自分から離れていこうとすることではなく、今まで自分がやってきたことをきちんと見ていけば、できることとできないことがすごくクリアにわかるんじゃないかと。むしろ、これ以上自分は出来ないっていうことを知る方が、自分のことを理解できるんじゃないかと思って。 だから、自分が今までやってきたことを全部出したいんですね。たぶん、空っぽになれば次のステップが待っている。
岡 崎:
では、今回の作品づくりは、佐藤さんにとって次への区切りの意味があるんでしょうか。
佐 藤:
そうなると思います。 ぼく、作品ができていく過程がおもしろいんですよね。ダンス初心者の方を対象にワークショップをしたりするんですが、一緒にリハーサルを重ねている4ヶ月くらいの間に、最初は何もできなかった人が、動きが変わったり発想が変わったり、どんどん変化していくんです。それは、僕の中ではすごくダイナミックだし、感動する。でも、お客さんは最後の発表だけしか見ないので、過程の面白さを楽しんでいるのは僕だけなんですよね。その面白さをお客さんとどうやって共有できるんだろうということを考えていると、ダンサーと踏んでいくステップも丁寧に進めていかないとな、と思っています。
岡 崎:
先ほどから何回か出てきていますが、佐藤さんにとっては「共有すること」という言葉がキーワードなんでしょうか。
佐 藤:
正確に言うと、自分たちが共有しようと思って共有すること、たとえば同じ時計を持っているとか、そういった小さい話での共有ではなく、もうちょっと大きい話として、僕たちがすでに共有している、共有してしまっていることというのがあるんじゃないかと思っていて。それを、ダンサーたちと一緒に探したいなと。
岡 崎:
ダンサー3人で共有されているものが、実はお客さんとも大きいなにかのくくりで共有されていて、ダンスを観ることで「あ!」って繋がって行くような、そんな感覚が芽生えたら、おもしろいですね。初めて見たのにしっくり来たり、なんだか見覚えがあるように思ったり…感じ方はそれぞれだとは思うんですけど。
 
お客さんと直にコミュニケーションしたい
岡 崎:
佐藤さんがダンスを始めたきっかけはどのようなものですか?
佐 藤:
もともと絵が好きで、大学の時は、絵を描いていたんです。でも、絵を描いてグループ展をしても、自分はバックヤードにいて、お客さんは見て、アンケートを書いて残して帰って行く。その遠さが嫌でした。ダンスがしたいということよりは、もっとコミュニケーションしたいっていうことが欲求としてありました。
岡 崎:
直接お客さんとやりとりをしたい、という気持ちがあったんですね。
佐 藤:
でも、一緒に踊るのと、踊りを見てもらうっていうのも、かなり違いがありますね。やっぱり、踊りって踊るものだなって思いますよ。そして、ダンスをやってる人って、踊りをやることでなにかを見せたいというよりは、踊りたい、っていう人が踊ってる。
岡 崎:
踊りを見せてるんじゃなくて、踊りたいから踊っていて、それを見た人は好きに見て、感じたことを伝えて。その関係、おもしろいですよね。別になにかを伝えたかったら、話をすればいいですからね。でも踊るからには、違う理由があると。
佐 藤:
今、話をしていて改めて思いましたけど、今僕がやっていることでは、言葉で伝わってしまうかもって思いました。見てもらわないと伝わらないことがある、そういうところまで持って行かないといけないですね。
岡 崎:
先ほどから何回か出てきていますが、佐藤さんにとっては「共有すること」という言葉がキーワードなんでしょうか。
佐 藤:
言葉でしゃべったら、そこで可能性が閉じられるなという気もします。見せると、それはいろんな可能性を見る人に委ねられるので、いろんな人がいろんなように膨らませてくれますよね。それが醍醐味なのかもしれません。
 
- インタビューを終えて -
岡崎大輔:
今回のインタビューは素直に自分が聴きたいと感じたことを質問することを第一に考え、聴いたことを自分なりの言葉にして佐藤さんに返し、お互いの共通認識をつくりながら進む時間になったと振り返っています。印象的だったのは「空っぽになれば次のステップが待っている」という言葉です。自分がやりやすいように、やってきたようにではなく、未知の領域へ進もうという佐藤さんの意思ですが、自分だけではなく3人のダンサーとチャレンジしようとなさっています。そのプロセスでは自分はもちろん、ダンサーとのやり取りの中でも多くの葛藤が生じると思います。それらすべてを引き受け昇華させられた時、どんな作品に仕上がるのか、非常に興味深いです。

PROGRAM2 ねほりはほり
6月7日(土) 12:30 | 8日(日) 15:00 (佐藤健大郎作品)
6月7日(土) 15:00 | 8日(日) 12:30 (松尾恵美作品)
場所 元・立誠小学校 2階 音楽室 | 上演時間 30分+トークセッション30分
料金 1,000円 (当日+300円)
※ねほりはほりセット券 1,500円【枚数限定/予約のみ】
webサイト予約フォーム || シバイエンジン

タイトル ||「筒状の白いsara」
振付 || 佐藤健大郎
出演 || 高木貴久恵 中間アヤカ 花本有加 (KIKIKIKIKIKI)
インタビュアー || 岡崎大輔