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interview 佐藤健大郎作品 ねほりはほり 《つくっている最中・1》 >> PROGRAM >> TOPPAGE

岡崎大輔→佐藤健大郎 インタビュー (2回目) 5月1日(木)京都 四条烏丸周辺
岡崎さんが佐藤さんの稽古場を見学してからのインタビュー。初めて触れるダンスの創作の現場に、いろいろな発見や疑問をもった岡崎さんからの投げかけが、佐藤さんの言葉をふくらませていきます。

岡 崎:
今日は初めて稽古に立ち会ったのですが、今日は何回目の稽古だったんですか? また、何割ぐらいできている段階なのでしょうか。
佐 藤:
稽古は10回目ぐらいですね。段階としては、4割か5割ぐらいかなと。作品の出来上がりということではなく、自分が大事にしていることがダンサーに伝わった割合としてですが。
岡 崎:
最初稽古場に入った時は、ウォーミングアップをしていたんですよね。身体のある点を固定して動く、その固定している部分に意識を集中して、など…。すごく地道な作業ですけど、かなりこだわってされていた印象があります。基礎を重要視されているんだと思いました。ダンスの素人の感覚でいうと、そういう基礎の部分はすでに出来あがっている人たちが、いかに表現をするかということを稽古でやるのかと想像していたんですが、ああいった下準備に入念なチェックを入れているのを見て、少し驚きましたね。
佐 藤:
もしかしたら、ダンサーが身体のきく人たちだから、そういうことをやっているのかもしれません。ある種、いろいろ器用にできる身体に、拘束を加えるというか。その拘束の上で身体をどのようにコントロールできるか。そういったトレーニングですね。
岡 崎:
制限を与えることによって、逆に身体を開いていっているように見えました。自分が好きに動ける範囲と、自分はまだ気付いていないけど実は動ける範囲というのがあって、その後者に気づくための作業なのかなと。
佐 藤:
ダンサーにどんなトレーニングが必要なのか、ということを考えていて、そういう意味ではトレーニングもひとつのチャレンジではあります。
岡 崎:
今日の稽古では、佐藤さんからダンサーに対して「クレイジー」っていう単語が何度か出てきたと思うんですが、どういった意味合いなんでしょう?
佐 藤:
僕が今、ダンサーに出している注文が多いんですよ。あれもこれもやって、ここの部分はボリュームを上げて、とか。それを、僕自身がダンサーとして試してみた時に、まあ、ようやるわ、と思って。一度に5つぐらいのタスクをこなさなくちゃいけなくて、自由度も全然なくて、頭おかしくなりそうなのに、よくやってるなっていう意味で、クレイジー。やらせておいて何を言ってるんだと思いますが(笑)。
岡 崎:
ダンサーの方も、タスクに追いつけていないから、「戸惑ってます」っていうことをおっしゃってましたね。
佐 藤:
慣れるのがよいのかはわかりませんが、時間は必要だと思います。生理的に気持ち悪いことをしているわけなので。でも、自分たちだけの新しい感覚みたいなものを作るためには、そういったハードルが必要だと思うので、なるべく我慢強く取り組んでいけたらと思っています。ダンサーがやっていることを僕がちゃんとわかっていないと齟齬が生まれてしまうので、彼女たちが僕の投げかけたタスクにどう応えたかは見逃さないよう、集中しています。僕の感覚から離れすぎないように、ただ見る側にはならず、時々は僕自身もダンサーとして入って、体感をチェックしますね。
岡 崎:
なぜ、ダンサーとして入っておきたいと思うんでしょうか?
佐 藤:
やっていることが生理的に落ち着かないことばかりなので、どれだけしんどいかというのを把握しておきたいということと、自分が試して見ることでもっと遊べる可能性を新しく提示できるんじゃないかという二つがありますね。あとは、彼女たちに負けたくないっていうことでしょうか。だって、僕がやりたいと思っていることで、僕がやったことのないことをやっているわけだから、僕も混ぜてよっていう(笑)。
岡 崎:
稽古では、最初順調に進んでいるのかな、と思っていたら、一度スムーズにいかずに停滞した時間帯がありましたね。でも終盤から、佐藤さんも「それ、いい」って、ノッてくるような雰囲気になっていったのが、おもしろかったです。周りから見ると微細な差だと思うんですが、佐藤さんが「良くなってきた」と思う時、見ているポイントはどのあたりにあるんでしょうか。
佐 藤:
そうですね。思い浮かんだのは、ある形から次の形に行く時に、ちょっと前のめりで進んでいくような感じでしょうか。ひとつずつ置いていくのではなく、どんどん転がっていくような。つんのめりながら走っているような、でも転ぶほどバランスは失っていないような状態がいいなと。
岡 崎:
振付はどのようにできていっているんでしょうか。
佐 藤:
いわゆるコンタクト、という方法で作っています。ある人が、相手の身体を動かしたり、一緒に動く、そういったことを繰り返していって作った動きですね。
岡 崎:
型があるものなんですか? それとも、即興的に組み立てていくものなのでしょうか?
佐 藤:
ひとつルールがあって、どこか1点、身体の中に動かないポイントを作って、相手に身体を動かされても、そのポイントがずれそうになったら止める。動かす人は、その動かないポイントをどこか当てられるまでその人を動かし続ける。それを繰り返して、ひとつずつ動きを決めて繋いでいきました。
岡 崎:
確かに、支点を意識する、ということを今日の稽古でもかなり指摘されていましたね。
佐 藤:
言葉ひとつで動きって変わるんです。それを何度となく経験してきていますし、大失敗もしてきました。たとえば、本番前までうまくいっていたのに、直前にちょっと受けたダメ出しがすごく響いてしまって、本番がガタガタになってしまうとか。自分にとっては、その言葉の使い方の稽古でもありますね。
岡 崎:
佐藤さんの指示だしも、具体的にこうしてということを示さないですね。スピードを上げてくださいとか、離れてください、とか。ダンサーの方は、何がよくて何が悪いのかわからない、ということもあるかもしれませんが、具体的な動きを指定してしまうことで、閉じてしまう可能性もあるんだろうなと思いました。
佐 藤:
基礎のワークをやっている時は具体的な言葉、クリエイションの時は具体的ではない言葉を使うようにしていますね。ダンサーだったら、しつこく言わなくても、繋げて考えることができるはずですし、ダンサー自身の中でやっていることのおもしろさを増幅させていってほしい。僕は自分が大切に思っていることは言えるけれど、そのおもしろさへの鍵を開けるのはダンサー自身ですから。
同時に、クリエイションの先の具体的なイメージを僕が持っている状態でもないので、まずはやってみたことから出てきた問題を、直球で受けるようにしています。稽古場では、課題が出てきてはその答えを探し、また課題が出て…という往復ですね。おもしろいと思ったけれど、なぜおもしろいと思ったかがパッとわからない時に、考え直すとか。当たり前のことなのかもしれませんけど。なるべくまとめずに、分かった気にならないように意識しています。
岡 崎:
まとめるというのは、自分の過去の経験に照らしあわせて、正解か不正解かの判断をして、わかりやすいところに落ち着かせる、とも言えますよね。それをあえてしないのは、今までやってきていなかったことを見てみようとしている、ということですね。
佐 藤:
そうですね。でも話をしていたら、まだ自分は甘いなと思いました(笑)。まだ自分自身から離れきれていないというか。
岡 崎:
でも、完全に真逆に振り切ってしまっても、今までの自分とは違うことになりすぎてしっくりこないですよね。今までやってきたことと、やったことのない間のバランスをどう取って進んでいくのかを探していらっしゃるのかな、と思います。
佐 藤:
バランスという言葉でいうと、たとえばダンサー同士という関係と、ダンサーとお客さんという関係があるとして、そのどちらにも寄りすぎない点を探そうとしている、ということもあります。いずれかにとどまってしまうと、安定はするんだけど、おもしろくないというか。その重心が常にずれていきながらも、バランスが壊れるのではなく、バランスは成立し続けているっていう感覚が、ダンサーの中に芽生えたらいいなと思います。そして、その感覚を観客とも共有する方法はないかなと。
岡 崎:
ある一定の調子で進んでいくんだなっていうことではなく、あっちやこっちに行って、そわそわしつつもそれがスリリングで楽しめる、ということでしょうか。
佐 藤:
惑星と衛星みたいな関係で、どれも止まっていなくて動き続けているのに、バランスを取っているような。そしてその時、誰も中心にいないんですよ。僕が中心にいるわけではない。僕も振付家として、そのバランスの中に入っているというか。
岡 崎:
なるほど、おもしろいですね。見る人によっても、感じ方はかなり変わってくるかと思いますが、その違いも楽しめるようになるといいですね。わかる、わからないの問題ではなく、自分はこう感じた、ということで、いろいろな話ができるような。
佐 藤:
そうですね。少し手放した言い方になるかもしれないんですが、作品の感じ方、響き方って本当に人それぞれだと思います。こちらが意図しているものが届くこともあれば届かないこともある、あるいは意図していなかったことが届くこともある。想像力って誰しもにもともとそなわっているもので、それをもっと豊かに出来れば、という気持ちはあります。その豊かさの幅をどれだけ広げられるかっていうのは、自分がダンスをしたり、作品を作る中で大きな部分を占めているかもしれません。
 
- インタビューを終えて -
岡崎大輔:
初めて稽古見学をさせていただき、文字通り「つくっている」という印象を受けました。具体的には、佐藤さんの中にすでに出来上がったイメージがあってそこに合わせていく作業というよりは、佐藤さんがまだみたことのないイメージが湧き上がる瞬間をキャッチして、作品の要素として拾っていくようなやり方だと感じました。ただ拠り所のない中に居続けることはダンサーにも佐藤さんにもタフなプロセスになると思います。しかし、少しずつではあるものの、佐藤さんは確かに何かをキャッチされているようでしたので、それがどう積み重なり作品として出来上がるのか、とても期待が膨らみます。

PROGRAM2 ねほりはほり
6月7日(土) 12:30 | 8日(日) 15:00 (佐藤健大郎作品)
6月7日(土) 15:00 | 8日(日) 12:30 (松尾恵美作品)
場所 元・立誠小学校 2階 音楽室 | 上演時間 30分+トークセッション30分
料金 1,000円 (当日+300円)
※ねほりはほりセット券 1,500円【枚数限定/予約のみ】
webサイト予約フォーム || シバイエンジン

タイトル ||「筒状の白いsara」
振付 || 佐藤健大郎
出演 || 高木貴久恵 中間アヤカ 花本有加 (KIKIKIKIKIKI)
インタビュアー || 岡崎大輔