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interview 松尾恵美作品 ねほりはほり 《つくっている最中・1》 >> PROGRAM >> TOPPAGE

岡崎大輔→松尾恵美 インタビュー (2回目) 5月3日(土)京都 銀閣寺道
今年は、相手をシャッフルして、いつもとは違うインタビュアーとの対話も試してみました。岡崎さんと松尾さんの初顔合わせ。佐藤さんとのインタビューではどちらかというと聞き手モードの岡崎さん、今日はどんどん質問で切りこんでいきます。松尾さんはたじたじとなりながらも、答える言葉を探って行きます。

 
俳優の身体と感情の関係
岡 崎:
昨日、福岡さんはお休みでしたが、大原さんとの稽古を見学しました。今、作品づくりとしてはどんな段階ですか?
松 尾:
ふたりに何をやってもらうかは大方決まってきたので、そのやり方をアレンジしたり、試している段階ですね。ふたり揃った稽古では、19分ぐらいの通しもしています。
岡 崎:
昨日は、身体の部位を意識する稽古といった印象でしたが、ああいった稽古を重ねているんでしょうか。
松 尾:
大原さんには、ああいった部位を意識する稽古と、涙が出るまで感情を高めていく稽古をやってもらっています。ただ、泣きの稽古になると、鮮度ということも問題になってきて、どうやったら美しいと思える状態に近付けるか、方法を模索している段階です。
岡 崎:
身体の部位への意識と感情、なぜそのふたつのトピックなんでしょうか。
松 尾:
私はダンスをしているので、役者さんは自分とは違う、特別なことをしているんじゃないか、と思っている部分があって。たとえば、悲しい気持ちの役柄をやる時は、悲しさに浸っているんじゃないかと。それを大原さんに尋ねると、たとえば夜ごはんのこととか、たまに全然関係ないことを考えているぐらいですよ、と答えたんですね。でも、悲しみっていう感情に向かっていく身体の要因がどこかにあるはずだと思って、身体と感情の双方からいろいろと試してもらっていますね。
岡 崎:
昨日僕も大原さんと話をしたら、大原さんは今まで演劇をやってきていて、ダンスをやったことは全然ないと。そもそもダンス経験のない人となぜ作品を作って行こうと考えたのですか?
松 尾:
たとえば福岡さんのようにダンスをしてきた身体にはない、もどかしさや出来ないこと、その不安な状態や切実さというのに興味がありました。もちろん、振付を渡したらすんなり実現できる身体ということも非常に重要だとは思うのですが、そこだけで展開していく作品づくりに興味を持つことができなくて。前回作った『Fit back?』(2013)でも、ダンサーでもありながらパフォーマンス寄りの活動をしている方に出演してもらったんですが、身体への違和感の持ち方が全然違ったんです。その違いから、発想が広がりやすくなりました。そういうことから、今回の出演者はひとりはダンサーで、もうひとりは、あまり舞台経験のない人もしくは役者でできれば、と企画側に伝えました。
岡 崎:
では、ご自身で敢えてそういうキャスティングを希望したんですね。
 
無責任だけど、誠実な立ち方ができる人
岡 崎:
ダンサーである福岡さんと一緒にやりたいと思った理由はどこにありますか?
松 尾:
福岡さんは、以前一度共演したことがあって、その頃から興味を持っていましたね。彼女は、演技をしません。たとえば今福岡さんにやってもらっていることを、自分がダンサーとしてやろうとすると、かなり演技でまとめてしまうなって思うんですけど、福岡さんは不思議とそうならない。もちろんすごく器用に身体を動かせる方だし、ひとつひとつ丁寧に動いているんだけど、踊っていない…うーん、表現が難しいんですが。やっていることよりも、そこに立っている福岡さん自身が引き立ってくるような印象があります。
岡 崎:
そういう福岡さんを見ていたら、どんな感じがしてくるんですか?
松 尾:
飽きることなく、ずっと見ていられる、って感じでしょうか。ただ座っていてぼーっとしているだけでも。稽古で一度「稽古場に入ってきて、何かをして、そのまま去ってください」というざっくりとしたお題を出した時に、福岡さんは、服をバッと一枚脱いで出て行きました。ただ、それだけなんですけどね、私は感動してしまう(笑)。何をするにしても、無責任だけど誠実さも同時にあるような人ですね。何をやるか読めないというのもあって。
岡 崎:
わざとらしさとか、「よし、踊ります!」みたいな自己主張のあるダンサーは、あまり好きではないんですか。
松 尾:
作品によります。そういう主張が必須の作品もあるだろうし、そうではない作品もありますよね。
岡 崎:
昨日の稽古では、大原さんに「よし、やったろ」感が出てると、それを消してくれって言ってましたね。
松 尾:
そうですね(笑)。自我を消してほしいっていう事は初回の稽古から伝えています。彼が出演している舞台を今まで2回観たことがありますが、どちらも、大原渉平という自意識がとてもあるように見えました。もちろんそれはその演劇の中で成立していたのですが、今回の作品では違う居方がいいのでは?という気がしています。むしろ、大原さんの今までとは違う新しい立ち方の可能性を探りたいと思っていますし、彼も意識をして稽古に取り組んでいます。ただ、すぐには難しいですね。無意識にしみついているものが大きいですし。
昨日、岡崎さんが稽古を見ているだけでも、なんというか、がんばってしまうというか。本番は更にお客さんがたくさんいるからテンションが上がっちゃうと思うんですけど、それを極力抑えて内部で葛藤が生じるような仕組みを、演出で作らないといけないなと思っています。
 
稽古場でどのぐらいしゃべるか
岡 崎:
稽古場では、たくさんしゃべっていたような印象を受けました。
松 尾:
けっこうしゃべりますね。ダンサーと役者で違うのか、大原さんがそういうタイプなのかはわからないんですが、大原さんからはよく、わたしが何を見たいのか、何をしたらいいのか、どのようなあり方がいいのかっていう説明を求められます。きっと、納得した上でやりたいんですね。その分私からも「今のはどうだった?やりづらさはある?」などと、質問を投げています。たぶんダンサーとだとあんなにしゃべらないと思います。福岡さんは、なにかを投げると、「じゃあやってみます」って感じになりますね。
岡 崎:
佐藤さんの稽古場では全然しゃべらず、ひたすら黙々とやっているので、違いに驚きました。 大原さんには、今まで持っていたものも大切にしつつ、別の可能性をひらいてみたいという話がありましたが、福岡さんへのアプローチはどうなんですか。
松 尾:
福岡さんの違う扉を開けようという欲求は、今はないですね。彼女が持っていて私がいいと感じている部分をどう実現できるか、自分がやろうとしていることとどうリンクするかっていう一点のみです。対照的に、大原さんにはどんどん欲がわいてきますね。私はすごく遠回りをしてしまうので山ほど試すからしんどい思いはしていると思うのですが、彼はすごく真面目で吸収も早く、どんどん変わっていきます。素直ですね。本番には、かなり変化が出ていると思います。もともと、大原さんが開演前のアナウンスをしている姿を見て惹かれて、この人とダンスというか、身体のことを一緒にやったらどうなるんだろうなっていう興味を持ったんです。その直感は間違っていなかった。
 
自分がやってみたら、拷問のようだけれど
岡 崎:
「ねほりはほり」の今回の機会を使ってやりたいことはありますか?
松 尾:
シーンや振付の組み立てではないダンスをしたい、ですね。たとえば、本番当日まで決まっていないところがあって、出演者当人の感覚に任せられている。そういう不安を抱えていても人の前に立たなければならない、というような。たぶん自分がやれと言われたら拷問のようですが、ダンサーが安心できるところを極力与えずに作品ができるかどうか。言葉や物語で説明したくはないですね。あと、共感もあまり求めていません。複数のタスクをずっとこなしていかなくてはいけなくて、そのやりづらさ、すんなりいかなさと葛藤している身体をそのまま舞台上に上げてみたい。
岡 崎:
どうしてそんなことを思い始めたんでしょうか。
松 尾:
なんででしょう。『Fit back?』でもそうでした。ひとりのダンサーが休みの時に代わりにやったら、自分ではやりたくないって思うぐらい精神的にも肉体的にもハードなことを課していましたが…
岡 崎:
自分がやったら拷問だろうなっていうことを、自分ではなく人にやってもらう意味ってどこにあるんでしょうか。たとえば、見ている側からすると、そういうきついことをやっている人が、松尾さんでも別の人でも、見るものは一緒ですよね。でもそこで自分が立つのではなく、人にやってもらうという選択はどこからくるんでしょう。もちろん、自分がやりたくないから、ということではないと思うんです。そこに何か意味があると思うのですが。
松 尾:
そうですね…自分が興味を持っている身体、美しいと思う身体というのがあって、それを見たいから、人にやってもらう、ということでしょうか。自分でやっていると、美しいとか、そういう感覚は得られないんじゃないかと思っていて。…すごいわがままですね(笑)。でも、それが大きいんだと思います。
岡 崎:
自分がいいと思うものを見たい、ということですが、松尾さんは作品をどのように見ていますか? たとえば、大原さんに違うと言ったり、福岡さんには新しいことではなく今あるものを出してほしいと思ったり、そういった判断はどこから来るんでしょうか。それがわかれば、どこをどう見たらよりおもしろくなるのかというポイントもわかってくる気がするんですが。
松 尾:
そうですね…お客さんにどう見てほしいかっていうことは、あまり考えてないです。
岡 崎:
いえ、お客さんのことというよりは、松尾さん自身がどのように見ているか、ですね。全体をぼやって眺めているとか、ある部分を集中して見ているとか。
松 尾:
どちらも行き来しているんですが、それを自分であまり根拠のある形でコントロールはできていないですね。ぼやっと見過ぎていたら、点で見たり、集中し過ぎていたら、全体を眺めたり。いずれかに偏り過ぎるとだめだな、という感覚はあるんですけど。
岡 崎:
ということは、ひとつの作品を5回見ていたとしても、毎回違った見方や感じ方をしているんですか。
松 尾:
そうですね。だからといって、見るところ自由で、自由に考えてくださいっていう風に投げているわけでもなくて、作り手としてはここを見せている、こういうことをやっているという意識は明確に持っているんですけど、その上で、見ている人が何に集中して何を感じるのかは、限定しません。わかりにくく作っているつもりはありませんが、お客さんが見やすいようにわかりやすく、という気持ちはありません。
岡 崎:
自分が見たいもの作っているわけですから、そうですよね。
 
観客がいるから、作品をつくる
岡 崎:
個人的には、じっくり見る作品なのかな、と想像しました。一言で片づけてしまうとなんだかよくわからなかったで終わってしまうかもしれないけど、じーっと見ていると、あれって思うような。
松 尾:
何をしていたのかわからないと言われる可能性は、大いにはらんでいる気がします。でも、「ここを動かしてるよ」って主張したらわかりやすくなることでもないですし。身体だけを見るために、余計なものはなるべく排除したいですね。人生観とか、ロマンとかも。
岡 崎:
自分が作りたいものを作り、見たいものを見るとすると、それってたとえば、お客さんはいなくてもいいんじゃないですか?
松 尾:
いや、いた方がいいです。じゃあ、山でやればいいっていうことですよね。そうでないから作れるんだと思うんです。
岡 崎:
ああ、そっか。
松 尾:
どう思われようが、他の人がこれを見るっていうことが先にあるから、こんなにもぐるぐる考えながら、ものを作れるんだと思うんです。誰かが見るっていうことは大事で、お客さんがいなくていいとは思いません。矛盾しているかもしれませんけど…。
岡 崎:
いや、矛盾はしてないと思いますね。どう思うかは知らないけど、とりあえず見ろってことですよね。
松 尾:
勝手ですね(笑)。
 
- インタビューを終えて -
松尾恵美:
出演者を決めた理由、その人達と一緒に作品を創ること、その先に観客がいるということ。創作における一つ一つの『当たり前』を岡崎さんに改めて問われ、自分自身に対して突き返しながらのインタビューとなりました。岡崎さんから問われた質問に対して答えをはっきりと言葉にできなかった。それだけグレーゾーンが残っていたのだなと感じます。本番間近となった今、あの時よりも少しだけ、言葉にできるのでは?そう思います。
岡崎大輔:
松尾さんの稽古現場を見学させていただき、作品づくりにおいて「これ」といった軸をお持ちのように感じました。それはダンス未経験の大原さんの動きに対する観察やフィードバックから感じました。そのためインタビューでは松尾さんにみえている「これ」が一体何なのか、純粋に知りたいという好奇心から次々と質問が湧いてくる時間になりました。残念ながらそれをはっきり読み解くことはできませんでしたが、その分作品をみる楽しみが増した気がします。そもそも言葉ではなく、ダンスという身体を用いて方法が表現されるわけですから、とにかく見て感じたことをもって、再び松尾さんとお話したいと考えています。

PROGRAM2 ねほりはほり
6月7日(土) 12:30 | 8日(日) 15:00 (佐藤健大郎作品)
6月7日(土) 15:00 | 8日(日) 12:30 (松尾恵美作品)
場所 元・立誠小学校 2階 音楽室 | 上演時間 30分+トークセッション30分
料金 1,000円 (当日+300円)
※ねほりはほりセット券 1,500円【枚数限定/予約のみ】
webサイト予約フォーム || シバイエンジン

タイトル || 形創るこわれ
振付・構成 || 松尾恵美
出演 || 福岡まな実、大原涉平 (劇団しようよ)
インタビュアー || 高嶋慈