interview 高木喜久恵作品 ねほりはほり 《つくっている最中・1》 | PROGRAM |DANCE FANFARE KYOTO

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高嶋慈→高木貴久恵 インタビュー (2回目) 5月30日(木)京都 四条烏丸周辺
高木さんの稽古場を高嶋さんがご覧になってからのインタビュー。作品のモチーフである「夢」の話から、実際に行われていた稽古の方法やそこで交わされていた言葉について、具体的な問いかけとその応答が重ねられていきました。高嶋さんからの質問によって、高木さんが重要なトピックにはっと気付く場面も。

高 嶋:
「夢見る装置」というタイトルをつけられていますが、今の段階でどういう作品を作ろうと考えていますか?
高 木:
まず、ひとつモチーフを持ちたいなと思いました。私と出演者二人が知っていて遠すぎないものであること、なおかつ、私自身がこの作品が終わっても興味を持って取り組み続けられるものを考えた時、夢っていうことがふと浮かんだんですね。寝ている時に見る夢。私、毎日夢を見るのですが、夢日記をつけていたこともあって、自分にとっては面白い素材だなと。
高 嶋:
高木さんはどのような夢を見ますか?
高 木:
すごく不条理な世界というか、いろんなイメージが積み重なっていくことが多いですね。そしてだいたい誰か人が死ぬんですね。自分が死にかける時もあって、死ぬ直前に起きるんですけど、死ぬ夢を見て目が覚める、この振れ幅が自分にとっては毎回不思議な体験として感じられます。
高 嶋:
眠っている状態も一種仮死状態であり、死体に近い状態ですよね。擬似的な死を繰り返して、新しい一日を始めている。
高 木:
だから、モチーフとして夢が浮かんだ時に、最初に死という言葉が繋がってきました。一昨年祖母が亡くなった時、祖母の身体が自分にとって不思議なものとして感じられたんです。生きているのか眠っているのか死んでいるのか分からない曖昧な身体が目の前にあり、その人は私を認識していない。人と人との断絶のようなことを強く感じました。また、断絶感、孤独感というのは今までの作品でも扱っていた素材でもあります。
高 嶋:
夢で見ている世界を動きで表現するというよりは、夢を見ているような身体の在り方に興味があるのでしょうか。
高 木:
そうですね。自分の夢をそのまま再現するということは考えていません。
高 嶋:
出演者とは初顔合わせでのクリエーションですが、どのようにコミュニケーションをとっていますか?
高 木:
まず、最初のウォームアップは一緒にやっています。あとは、今回の作品で見せたいものをつくるための身体言語を共有するための時間を設けています。また、私が提案したことをやってもらった後、短くてかまわないので、必ずフィードバックを言葉で言ってもらうようにしています。
高 嶋:
ウォームアップのワークを2~3週間ほど続けていると思いますが、動き方や反応の仕方など、ダンサーに変化はありましたか?
高 木:
変わってきたと思います。共通の身体言語をもててきたと感じていて、それがだんだん身体になじんできたような気がします。
高 嶋:
稽古を見ていて、動きの"質感"という言葉が高木さんからよく出ていました。その質感とはどういうものですか?
高 木:
身体のフォルムというよりは、脱力した状態で動くとか、逆に全身力んだ状態で動くとか、重心を分散させるとか…。たとえば、水だと液体にも固体にも気体にもなりますよね。もとはひとつのものなんだけれども、軽さや重さなどの変化をつけるということでしょうか。おそらく、質感という言葉がよく出てくるのは、私が昔、絵を描いていたからだと思います。デッサンでガラスと布の質感を描き分けるようなことと似ています。
高 嶋:
その質感を変えたい、あるいはこういう質感でやってみたいと思った時に、どのようにダンサーに伝えますか? 具体的に身体の状態を示すのか、あるいはイメージ的な言葉を投げかけるのか。
高 木:
可能な時は具体的に言うようにしているのですが、そうではない時は、近いと思うイメージを伝えてひとまずやってもらい、出てきたものが違ったら、違う言葉を使って伝えます。ただ、どのような言葉でも、自分のイメージ通りのものは戻ってこないので、逆にそれが自分の発見にもなります。
高 嶋:
今日の稽古は、前半がウォーミングアップ二つと、いろんな質感を作るワーク、後半はもう少し振付として固まったところを稽古していましたね。
高 木:
以前の稽古で重里さんに振付をしたものを、ユニゾンでやってみたらどう見えるか、試していました。やってみて面白かったので、もしかしたら作品に入ってくる可能性もあります。
高 嶋:
重里さん一人で踊る時と、二人でユニゾンで踊る時の違いはどこにありますか?
高 木:
一人の時は、"重里さんの踊り"という面が強かったんですが、二人になると、抽象的になる感じがしました。ですが…難しいですね。ユニゾンでやったら面白いんじゃないかというのは、思い付きではあるんですが。
高 嶋:
ソロとユニゾンの違いは、単純に一人増えたということではないと思うんですよね。
高 木:
そうですね。リズムが生まれるってことなんでしょうか。もちろん一人で踊っていてもリズムはあるんですけど、層がひとつ広がる感じがありますね。ただ、自分でもそれについてを突っ込んで考えたことがなかったので、自分への課題にします。
高 嶋:
稽古ではいろいろな要素を試している段階だと思いますが、その作業とは別に、高木さんの作品に対する考えを共有するために、なにかやっていることはありますか?
高 木:
作品のことだけじゃなくて、自分が今どういうことを考えているかや、自分で大切にしていること、自分のダンスや身体の見方など、稽古中に言うようにはしていますね。ダンサー二人からもそういった事を聞かせてもらっています。
高 嶋:
稽古中、高木さんがおっしゃっていたことで、どういう行為であれ、なにかをしている人の姿に目が離せなくなるっていう話がありました。たとえば、泣いている赤ちゃんから目が離せなくなるなど。なぜ目が離せなくなるのか、またそれはどういう状態なんでしょうか?
高 木:
お金を払って人が舞台を見に行くっていうことがどういうことなのか、最近すごく考えています。自分自身も、なにが見たくて舞台に行くのかなって。そんな中、和田ながらさん(ねほりはほり企画者)と話していた時に、「人を贅沢に見ることができる時間」ということをおっしゃっていて、共感しました。生活の中でもいろんな人を見ているんですが、舞台のようにまじまじと集中して誰か一人のことを見るって、特別な行為だと思うんですよね。それは、たとえばこんな風に普通にカフェに座っていては見られない状態の人を見たいっていうことでもあると思います。それが具体的にどういう状態なのかはわからないですけれど。稽古場では、目が離せなくなるような、そういう状態があらわれるのを探している感じです。自分の中では答えがまだなくて、でもそこに近づきたいという思いで、もしかしたらそういう状態になれるかもしれない、ということを、色々試しながら、ダンサーと探っています。
高 嶋:
実際、今の稽古ではその状態に近づいていますか?
高 木:
少し見えてきそうだなっていう瞬間はあるんですけどね。そこからどう形にしていくかを試しているところです。
高 嶋:
今の動きはあり、もしくはなしっていう判断の基準ってどこにあるんですか? たとえば高木さんが見たい動きであるのかどうか、あるいはそのダンサーらしいかどうかなど。
高 木:
もう一回見たいと思うことがまず大事ですね。そこにしか判断基準がないかもしれません。
高 嶋:
現在の課題と、これからどういう作業をしていこうと考えているか教えてください。
高 木:
モチーフにしている「夢」を作品の中でどう取り込んでいくか、考えないといけないなと思っているところです。作業としては、もう少しいろいろ試しながら、膨らませられるシーンの深度を深めていくようなことも並行してやっていきます。
高 嶋:
ダンサーの他に、中川裕貴さんという音楽の方が作品に参加されるんですね。
高 木:
そうですね。中川さんと一緒に作品づくりに取り組むのは初めてなのでお互い探り探りではありますが、音にも刺激を受けつつ、新しい発見があったらいいなと思っています。
高 嶋:
こういう音を作ってほしいというようなイメージはありますか?
高 木:
モチーフが夢なので、あまりファンタジックな感じにはしたくないと思っています。目の前にあるふたつの身体を際立たせられるような作品にしたいと思っているので、音楽がイメージを乗せていかないような形で進めていきたいです。
 
- インタビューを終えて -
高 木:
クリエーションが始まり、色々試している段階でのインタビュー、予想以上に言葉につまりました。高嶋さんが稽古場に観に来て下さり、そこで感じたことの素直な感想や疑問が、自分にとっては当たり前に進めていた事への自問に繋がりました。 自分を通して眺めている稽古場にもう一つ違う視点が入ることで、この段階で一度引いて観ることができたことは、貴重な経験でした。 稽古場でのダンサーとの時間の積み重ねが、もう少し形になってくるように作業しながら、さらに言葉を探し続けたいと思います。
高 嶋:
初回のインタビューでは作品作りやダンス観など前提的なことが中心になりましたが、第二回目のインタビューは、重里さんと松本さんとの稽古を見学させていただいた上でのぞみました。稽古の中で具体的な形になってきた部分と、まだ模索中の部分とがあるので、「どのような問いかけをすれば、高木さんが今考えていることを引き出せるか」が難しかったです。問う側の言葉をどうクリアにするか、次回への課題としてのぞみたいと思います。 また高木さんが稽古中に試していたことについての質問から、「ソロとユニゾンの違い」という問題が出てきました。これが今後の作品作りにどう作用するかはまだ分かりせんが、これまで意識していなかった問題を引き出せたことは、今回のインタビューの1つの収穫なのではないかと思います。

PROGRAM4 ねほりはほり
7月6日(土) 15:00開演 (高木作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 17:15開演 (西岡作品のみ上演+トーク)
7月6日(土) 19:45開演 (増田作品のみ上演+トーク)
上演時間 各回60分 (作品上演 約30分+トーク 30分) | 上演場所 音楽室
定員
各回60名 | 料金 各回500円 (当日+300円)

7月7日(日) 15:00開演 (ねほりはほり3本立て) ※トークなし
上演時間 約90分 | 上演場所 音楽室 | 定員 60名 | 料金 1,500円 (当日+300円)
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タイトル ||
「夢見る装置」

振付 || 高木貴久恵  出演 || 重里実穂 | 松本成弘  音楽 || 中川裕貴
インタビュアー || 高嶋慈

人は誰でも夢を見る。夢を見ている、ということは生きているということだ。 目が覚めた時、それは残像のように身体にこびりつき、はかなく消え、再び意識の奥に葬られる。この、極めて個人的で曖昧なものを記録し、他者の身体というメディアに定着させることで、そのイメージはもうひとつの[現実]として現れる。